こんにちは。

最近1ヶ月くらいのところの世界の中での保健、リプロ関係の動きを紹介します。



2007年8月エイズ会議

スリ・ランカコロンボで8月19日から23日まで、第8回アジア・太平洋地域エイズ国際会議(ICAAP)が開催されました。(詳しくはhttp://www.icaap8.lk/)18日には、「女性法廷」が開催され、アジア・太平洋地域での20人のHIV陽性(Positive)の女性たちが、家族や社会から相続権や財産権が否定されたり剥奪される生活について証言し、HIV陽性の女性が直面する困難を表現しました。

本会議では、エイズの女性化、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ、女性に対する暴力、女性の相続権・財産権、セックス・ワーカーのエンパワーメント、移民女性の人権と健康、女性側からの予防など女性に関するテーマのセッションも多かったとのことです。

たとえば22日の全体会では、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツと結びついたHIV対策がより効果的であるとして、HIV予防、生涯の治療、家族計画と母子感染予防プログラムが提供され、情報とサービスが若い人たちに確実に届き、早期婚姻や女性に対する暴力の結果としてHIVに感染しやすいことを減らすこと、HIVに感染している人たちのセクシュアル・リプロダクティブヘルスに取り組むだけでなく、性関係のなかでコンドームの使用を当たり前のものとすること、人権侵害を根絶することが必要だと国連人口基金のプルニーマ・マネ(Purnima Mane)事務局次長が
発言しました。

来年は、8月3日から8日までメキシコ・シティで国際エイズ会議が開催されます。

なお、今年、Women Global Network for Reproductive Rightsから、母子感染予防(PMTCT)についてセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツの視点からまとめた資料が作成されています。英文はhttp://www.wgnrr.org/pdf/Factsheet2_EN.pdfから入手できます。



世界の保健政策の動き

妊産婦死亡率は、途上国と先進国の格差を最も大きく示すものであり、スウェーデンが3万人に1人であるのに対して、アフガニスタンでは6人に1人が妊娠・出産で亡くなっています。(もちろん、妊産婦死亡率という指標はかなり測定が不正確なものであり、しかも一人の女性にとっては生き延びるかどうかという深刻な問題なので、「率」で表すことには抵抗もありますが、その社会の状況の状態を示すことには意味があります。)

9月5日にイギリスのゴードン・ブラウン首相によって、途上国の保健制度を構築するための新しい保健構想(イニシアティブ)が発表され、多くの報道がなされました。子どもの死亡率の削減と妊産婦の健康改善、HIV/AIDSなどの蔓延防止(MDGsの4,5,6)を目指します。http://www.unfpa.org/news/news.cfm?ID=1028&Language=1

また、9月26日には、子どもの死亡率の削減と妊産婦の健康改善(MDGsの4,5)を実現するためのグローバル・ビジネスプランが発表される予定です。
http://www.who.int/pmnch/activities/delivernow/en/index.html




日本やアメリカがどのようなかかわりを持つのかが注目されます。

日本では、奈良県内から救急搬送された妊婦が8月29日、同県や大阪府などの計9病院で受け入れを断られ、救急車内で死産した事件が起きています。同県では昨年も、公立病院で分娩中に意識不明となった妊婦が、同府内などの19病院に受け入れを断られた末、搬送先の病院で8日後に死亡しました。日本でも産科への政策的軽視、地域格差や当事者の状態による格差があり、このような事件の一因でもありますが、アメリカ合州国では、妊産婦死亡率が過去数十年で最高になっていると報じられています。その原因については、帝王切開の増加、肥満の増加を挙げる研究者もいますが、人種による医療の質の格差との関係も指摘されています。つまり、黒人の妊産婦死亡率は白人の3倍に達しているのです(Kaiser Network 8月27日)。
いわゆる先進国でも、新自由主義の影響が、妊産婦死亡の増加という形で現れています。




これからの国際会議の案内

2007年10月に「Women Deliver Conference」がロンドンで開催されます。年間約50万人、各世代で1,000万人にも上る女性や少女の妊娠・出産中の死亡、400万人の新生児死亡を食い止めることを目的とします。2,000人以上の参加者が見込まれ、妊産婦死亡を削減するための効果のある方法はもちろんのこと、貧困削減、女性の人権、経済発展といった重要課題にも取り組む予定です。会議には、75カ国以上から、大臣、国連機関代表、その他多国間機関からの参加者や政府高官、医療従事者、研究者、経済学者、リプロダクティブ・ヘルスの推進団体などが参加します。

2007年は、「妊産婦の健康を守るイニシアチブ」の20周年を記念するものであり、192
カ国がミレニアム開発目標MDGs)の8つの目標を採択した2000年と、その達成目標の年である2015年との中間点にも当たります。ミレニアム開発目標の8つの目標の1つである「妊産婦の健康の改善」は、この目標が達成されなければ他の目標も達成されないことから開発目標の中心です。新生児や子どもの健康の改善や、HIV/エイズ感染者数の削減、教育の完全普及、ジェンダー平等の推進などの目標の支えともなっていますが、妊産婦と新生児の健康は未だに充分な注目と資金が集まっていないのが現状です。

会議では、女性と新生児の健康の改善、人権推進、資金源の拡大、政治的意思の確立、女性の積極的登用が検討課題になります。この会議を計画した主な団体は、国連人口基金UNFPA)、ユニセフUNICEF)、世界銀行世界保健機関(WHO)、英国国際開発省(DFID)、オランダ外務省、ノルウェー開発協力庁(NORAD)、スウェーデン国際開発協力庁(SIDA)、ファミリー・ケア・インターナショナル、国際家族計画連盟(IPPF)、セーブ・ザ・チルドレンSave the Children)、妊産婦と子どもの健康のためのパートナーシップ
(Partnership for Maternal, Newborn and Child Health)であり、また組織委員会には40以上のNGO団体が参加しています。



2007年10月23、24日のロンドンでの、マリー・ストープス・インターナショナル主催の「安全な中絶・世界会議」では、安全な中絶を利用できるようになってきた道のり、安全でない中絶の悪影響、各国の体験、宗教と中絶、中絶を禁止する言説の誤解を解くこと、中絶の体験を語ること、法改革の流れと手法、中期中絶、薬での中絶、難民女性たちのニーズなどのテーマが話し合われます。

なお、今年はWGNRR =Women’s Global Network for Reproductive Rights が安全な中絶をテーマにして取り組んでおり、若い人たちの中絶についてもパンフレットを作成していますのでご覧ください。http://www.wgnrr.org/pdf/Abortion_Brochure_EN.pdf



私はこのイギリスでの二つの会議に参加する予定です。



また、同じく10月29から31日には、インドのハイデラバードでは、第4回アジア太平洋Reproductive and Sexual Health and Rights会議(APCRSR)が開催されます。sexual
and reproductive healthについての人権に基づいたプログラムの原理・原則の理解の促進、若い人たちの視点に基づく研究やプログラムの将来の構築、ミレニアム開発目標達成のためにsexual and reproductive healthの中心
性を補強することなどを主な目的とします。詳しい情報は、次のホームページから入手できます。http://www.4apcrsh.org/



妊娠中絶についての動き

昨年、妊娠中絶全面禁止法が制定されてしまったニカラグアでは、今年最高裁判所でこの禁止法が憲法違反であることとの判断を求める裁判がなされていますが、もうすぐ裁判所の判断が示されることになっています。私からもニカラグア最高裁判所に適正な判断を求める文書を送付しました。

(WGNRRの移転先として候補になっている)フィリピンでは、カトリック思想の影響を強く受けて、リプロダクティブ・ヘルスがここ数年で急激に悪化しています。家族計画を定めるリプロダクティブ・ヘルス法案が否決され、コンドーム普及が警察によって阻止されるなど深刻な状況が続いています。ロイター9月5日報では、アメリカ合州国の政府援助プログラムが2008年にフィリピンに避妊具を配布するのを停止される見込みであり、安全でないいわゆる闇中絶が増加することが懸念されることが報じられています。

ヨーロッパでは妊娠中絶をめぐり、アムネスティ・インターナショナルローマカトリック教会との関係が悪化しています。6月には、レナートマルチノ枢機卿バチカンの正義・平和部長官)は、アムネスティへの寄付を引っ込めることを示し、スコットランドのキースオブライエン枢機卿は、(アムネスティ・インターナショナルが戦時や紛争下での性暴力の被害女性の人権保護に取り組んでいるため当然の方針でしょうが)強姦や近親姦という一定の状況下で妊娠中絶を受ける女性の権利を支持するという方針を明示したアムネスティ・インターナショナルとの協力関係を解消すると発表しました。



アメリカ合州国では、科学技術が性別による選別を促進しており、家族のジェンダーバランスを保つため女児を選好する傾向があることが報じられました。Genetics and Public Policy Centerk2006の報告では
PGD(着床前遺伝子診断)による胚選択の42パーセントがいわゆる遺伝性疾患の予防を目的としない性別選別のために利用されているとのことです。(9月2日付けWomen's eNews)

他方、中華人民共和国では、性選別のために1800万人の中国人男性が妻を見つけることができなく医状況で、このことが女性の人身売買、性犯罪、社会不満を誘発するとして性選別中絶への罰則を強化することを検討しています。たとえば、江蘇行政区の連雲港では1〜4歳の子どもでは、100人の女の子に165人の男の子の比率となっています。

イギリスでは子どもをもつことの先延ばしを希望している女性が、日本で開発された新しい技術を利用して卵を冷凍保存できるようになると報じています。イギリスで人工授精を行う2つの病院は、9月下旬にも卵子凍結サービスを開始する予定(BBC9月2日)。

イギリスでは英国ヒト受精・胚機構Human Fertilisation and Embryology Authority
(HFEA)が、科学者が例えばパーキンソン病などの治療のための幹細胞研究のために99.9%がヒト、0.1%が牛であるであるヒト動物交雑胚を短期的に存在させて使えるという原則を承認する見込みであると報じられました。(Times9月4日)



10月の、日本国内の集会を案内します。

7月21日に「女たちはどこにでもいる」と題して、ナイロビでの世界社会フォーラムを通して見た、国際経済政治の中の、リプロダクティブ・ヘルス/ライツについて話題提供をしました。その続きとして大阪での10月の集会では「アフリカにリプロはあるのか。堕胎罪が存続する限り、真の女性の政治参加はありえない!」という視点から私たちの課題とつなげて考えてみることを予定しています。現行刑法の堕胎罪が制定されてもう100年が経過してしまいました。この間日本は確かに経済発展をし、その恩恵として医療技術も発展しましたが、社会の仕組みや意識はどれだけ変化しているでしょうか。日本の状況とアフリカの状況は無縁ではなく、共通の課題も多いことや、つながる必要性を考えていきます。

2006年9月のアフリカ連合の保健大臣の会議で採択された、アフリカでのセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツを促進するための「マプト行動計画」(今年1月号の10大ニュースの記事やhttp://www.unfpa.or.jp/3-1past/200609.htmlを参照ください。)には、アフリカでのセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスサービスへの普遍的利用を可能にすることを定めていますが、この行動計画実現のため、リプロダクティブ・ヘルスの推進に向けて各国の努力がある一方、家族計画などに反対する勢力からの抵抗もあるようです。国際政治の中のリプロダクティブ・ヘルスについて一緒に考える機会にしたいです。今後の「マプト行動計画」関連のニュースにも注目したいところです。関西地区に知人のある方は、下記のチラシ(大阪)もご覧ください。


女たちはどこにでもいる

WSF2007 世界社会フォーラム ナイロビ 報告会 IN 大阪 10月13日
「女性の人生と性・堕胎罪のある国をなくしたい」
2007年1月、世界各地から赤道直下のナイロビに何万人もの人々が集まりました。
 会場では、女性に対する暴力、貧困ゆえの妊産婦死亡、安全でない中絶による死亡や後遺症、HIV/エイズの女性への拡大、FGM(女性器破壊)、早期婚姻、女性の財産権・相続権の制限、女性が尊厳を保って労働できる環境の不足、人身売買、同性愛嫌悪などの課題に取り組む世界各地の女性たちに出会うことができました。
このような課題には、女性の尊厳、人権、安全、健康、地位などが格下げされていることが大きく影響しており、形は違っても日本で起きていることと無関係ではありません。
これらの社会の歪みは、女性の中でも、貧しい女性、障がいがある女性、異性愛以外の女性、移民女性、若い女性などに集中しがちです。格差が広がりつつある日本社会の行く末を一緒に考え、今後の活動の力にできればと思い、この報告会を企画しました。どうぞ おでかけください。
報告者   すぺーすアライズ  麻鳥澄江さん  鈴木ふみさん
スペースアライズが作成したおもな書籍『ドメスティック・バイオレンス 援助とは何か 援助者はどう考え行動すべきか』(教育史料出版会) 『もし大切な人が子どもの頃に性虐待にあっていたら』(青木書店) 『女の遺言 わたしの人生を書く』(御茶の水書房) 『女たちはどこにでもいる (WSF2007報告)』
日 時    2007年10月13日(土曜日) 13:30〜16:30
場 所    クレオ大阪中央 4階セミナーホール 大阪市天王寺区上汐5−6−25(TEL:06-6770-7200)
地下鉄谷町線四天王寺前夕陽ヶ丘」駅下車、�番出口から北東へ徒歩3分

参加費    2,000円 (資料代含む)         
[ 問合せ・申込み先 ]   
ウィメンズセンター大阪  大阪市阿倍野区旭町2-1-1-123
   TEL: 06-6632-7011 (10時〜17時)
   FAX:  06-6632-7012
主催  ウィメンズセンター大阪 ・
 はるウィメンズクリニック