緊急避妊の専用薬ノルレボが本日正式に承認に

緊急避妊の専用薬ノルレボは本日24日の会議で正式に承認となりました。

すぺーすアライズが11月に提出したパブリックコメントを下記の通り紹介します。

厚生労働省医薬食品局審査管理課御中

「ノルレボ錠0.75mg」の医薬品製造販売承認に係る
NGO すぺーすアライズ」の意見
 
NGO “すぺーすアライズ” /アライズ総合法律事務所
〒272-0023 千葉県市川市南八幡4-5-20-5A
                                  Tel.047-376-6556 Fax.047-320-3553         
室長   麻鳥 澄江
                  事務局長 鈴 木 文
                                   allies@crux.ocn.ne.jp

 日ごろの、御省の医薬品行政にかかる熱心な取組みに感謝しております。

 さて、「ノルレボ錠0.75mg」(Levonorgestrel)の医薬品製造販売承認に係る意見募集がございましたので、下記の通り意見を提出いたします。

1 「早期」承認の必要性
 2009年に内閣府男女共同参画局から公表された「男女間における暴力に関する調査報告書によれば、異性から無理やりに性交された被害経験のある人は7.3%です。被害者のうち、加害者と『面識があった』という人は8割近く、加害者は「配偶者(事実婚や別居中を含む)・元配偶者(事実婚を解消した者を含む)」という人が35.5%と最も多く、次いで「職場・アルバイトの関係者(上司、同僚、部下、取引先の相手など)」(25.8%)、などとなっています。さらに、「無理やりに性交された」と被害者本人が認識していなくても、加害者からの暴力や脅迫を恐れて望まない性交に応じる、加害者との力関係から性交を拒否できない、相手方に嫌われたくないから性交に応じる、相手方に経済的に依存しているため性交を拒否できないなど、上記数値には含まれない性暴力が蔓延しています。
 このように性暴力の被害にあったとき、妊娠の可能性について最も大きな不安を抱く被害者が多いのが現実です。しかし、日本では、現時点では緊急避妊の専用の薬(緊急避妊ピル)が認可されておらず、適用症とは異なる中用量ピルを一部の医師の責任で処方しているに過ぎず、このようなことが性暴力被害者の負担を大きくし、また性暴力被害女性の緊急避妊へのアクセスを困難にし、望まない妊娠を招き、また被害者の精神的ストレスを増加させています。アメリカ合州国では強姦被害者の5%が妊娠し、その半数がやむなく人工妊娠中絶をしています。
 もともと、まだ緊急避妊が普及していない1960年・70年代には、緊急避妊は性暴力の被害者対応として利用されていました。このような緊急避妊薬のうちでも、有効で副作用が少ない薬品が早急に承認されることは、性暴力の被害者の支援にとって不可欠なことであり、承認が遅れることは、それまでの間に性暴力の被害にあった女性の良質な緊急避妊へのアクセスを妨げることに他なりません。
 なお、本パブリックコメント募集の際に公開されている「品目概要」には、「コンドームの装着不備、低用量経口避妊薬の飲み忘れなど、避妊措置に失敗した又は避妊措置が十分ではなかった場合」と記載されており、あたかも使用する女性に積極的な責任があるかのような記載がされておりますが、誤解を招くものとしてふさわしくありません。性暴力が蔓延しており、未だに女性が対等に性行為について男性と交渉することが困難な社会状況とその状況下での女性の人権保障の観点から早期に承認に踏み切るべきです。
 また、「ノルレボ錠0.75mg」(Levonorgestrel)の承認が性道徳を乱し、安易で危険な性行為を増加させるとの誤情報もあるようです。下記の引用文献にも記載されておりますが、Levonorgestrelについては、このような悪質な誤情報がまことしやかに流布され、しかもこれにもとづいて承認や利用拡大を阻止しようとする勢力があるとすれば、その多くは虚偽の情報を悪用して女性の人権を侵害する、または女性の人権の保障を快く思わない勢力の限られた、しかし、声高で強硬な意見に過ぎません。
 さらに、「ノルレボ錠0.75mg」(Levonorgestrel)の承認が性感染症の予防に効果的なコンドームの普及を妨げるとの暴論もあるようですが、男性が着用するコンドームの普及を妨げているのは、女性が男性と対等かつ平等な関係がないことが主な原因であり、これを文部科学省が必要な性教育さえも拒否し、厚生労働省エイズ対策を除いてコンドームの積極的な普及に消極的であるからです。「ノルレボ錠0.75mg」(Levonorgestrel)を早期に承認しないことは解決にならないばかりか、ますます女性の人権を侵害するものであります。
 したがって、「ノルレボ錠0.75mg」(Levonorgestrel)の承認は当然必要なことであり、早急に承認されることを求めます。

2 安全性について
 既に多くの国々でLevonorgestrelが承認されております。また、WHOが本剤をEssential Medicineに指定していること(”Essential Medicines for Reproductive Health: Guiding Principles for Their Inclusion on National Medicines Lists” Seattle PATH; 2006, http://www.unfpa.org/webdav/site/global/shared/documents/publications/2008/essential_medicines.pdf )からも分かるように、安全性については検証済みであります。ただし、不適切な使用方法による誤用が報告されていますが、このような事態を減らすためには、むしろ早急に承認して適切な使用方法を普及させることが先決です。
 例えば“Safety of levonorgestrel-alone emergency contraceptive pills Fact sheet”( Authors:UNDP/UNFPA/WHO/World Bank Special Programme of Research, Development and Research Training in Human Reproduction (HRP), Publication date: 2010, WHO reference number: WHO/RHR/HRP/10.06
http://www.who.int/reproductivehealth/publications/family_planning/HRP_RHR_10_06/en/ )は、Levonorgestrelの単独使用の安全性をさまざまな角度から検証しています。例えば、深刻または長期間の副作用が生じないこと、子宮外妊娠の危険性を増加させないこと、将来の妊孕性に悪影響を及ぼさないこと、誤って妊娠初期に服用した場合に胎児の成長に悪影響を及ぼさないこと、妊娠をした場合には流産を引き起こさないことなどが根拠データとともに検証されています。ちなみに、Levonorgestrelの利用が性的または避妊の点からリスクの高い行動を引き起こすわけではないことも実証されています。
 
3 今回のパブリックコメント募集について
 女性差別撤廃条約を批准し、国際人口開発会議の行動計画や北京行動綱領の採択にて合意した政府には、リプロダクティブ・ヘルス/ライツを積極的に推進する責務があり、このような緊急避妊についての社会の認識不足を是正していく役割があります。しかし、今回のパブリックコメント募集という手法はそのような政府の役割を半ば放棄したものです。今後は、少なくともリプロダクティブ・ヘルス/ライツを否定する立場を助長しあおるような意味での安易なパブリックコメント募集は慎重にされることを求めます。
 医療品の中でも、リプロダクティブ・ヘルス/ライツに関わるものについては、女性にとっての必要性と安全性という観点からではなく、女性の人権や健康の犠牲によって社会での既得権を維持しようとする立場からの、しかも誤った情報からの数集めに過ぎない反対がなされることが予測され、そのような立場を承認の是非の際に鵜呑みにすることや厚生労働省の消極的対応の口実とすることは回避される必要があります。

4 今後の課題
 「ノルレボ錠0.75mg」(Levonorgestrel)の承認は早急にされてしかるべきですが、承認された場合でも、承認後の課題は山積しており、厚生労働省におかれましては、下記の点について、対応をとられることを求めます。
 ”Emergency contraception: dispelling the myths and misperceptions” (Bulletin of the World Health Organization 2010;88:243-243. doi: 10.2471/BLT.10.077446, 14 April 2010, http://www.who.int/bulletin/volumes/88/4/10-077446.pdf )においては、次のような指摘があります。既にLevonorgestrelを承認している多くの国では、必ずしも望まない妊娠率を画期的に減少できているわけではありません。承認されても緊急避妊についての情報や知識が関係府省の怠慢により普及しないという現実があり、例えば、Levonorgestrelが緊急避妊薬として解禁されているニューヨーク市の調査でも若者の半数以下しか緊急避妊について知りません。また、知識があっても利用できているわけではなく、英国の調査では女性の91%が「モーニング・アフター・ピル」を聞いたことがあるが、7%しか利用したことがないとのことでした。その理由として、Levonorgestrelが不妊やがんを引き起こすという誤解があることがあげられています。
 Levonorgestrelの承認とともに、社会全体に緊急避妊についての、利用方法を含めての正確な知識を普及させること、緊急避妊についての誤解を積極的に解くことも必要です。とりわけ、犯罪被害者対策として緊急避妊のアクセスの向上はとくに、積極的に推進されるべきです。
 また、医療機関が緊急避妊について充分理解していないということも報告されています。薬剤の承認だけでなく、緊急避妊を必要とする女性が来院する可能性がある全医療機関でLevonorgestrelが利用できるようにする必要もあります。
 さらに、緊急避妊について正しい情報を普及させるためにはメディアの役割は重要ですので、厚生労働省におかれましては、報道機関との連携を密にして、緊急避妊について正しい情報を普及させることを求めます。

 最後になりましたが、御省の皆様の御活躍を期待しております。
2010年11月28日