ODAによるオリセットへの支援について

2008年12月2日の外務省でのODA政策協議会では、途上国向けの、農薬を塗りこんだ蚊帳の普及をODAを利用して支援することが議論されました。

ODAによるオリセットに関するすぺーすアライズの立場

当団体としては、前提として、RBMの基本姿勢についてはほぼ支持できる。
ただし、農薬処理蚊帳については下記の留保を付す。
(1)効果について
確かに通常蚊帳よりもマラリア蚊に対して有効であるとの研究結果は多く発表されている。ただし、一部ではあるが通常蚊帳との効果の差は見られないという報告もあり、効果があるとした調査研究の測定方法を批判しているものもある。当団体では、その効果比較に関する研究結果を短期間に評価することはできないが、仮に通常蚊帳との効果の差異が見られないことが判明すれば農薬蚊帳を支持する理由が存在しないことになり、農薬蚊帳の通常蚊帳に対する優位性は農薬蚊帳の配布に賛成する最低条件となる。
(2)副作用および危険性について
仮に農薬蚊帳が「有効」であった場合であっても農薬蚊帳の副作用および危険性の観点から下記のとおり留保を付さざるを得ない。
まず、副作用や危険性について研究はなされているものの、その研究期間が短期のものが多く、また効果の測定に付随的なものであり、かつ測定の範囲も限定的なものである。そのため副作用や危険性がまったく存在しないという研究結果に当団体ではにわかに依拠することはできない。一部団体から指定があるように、特に子どもに対する長期的影響は充分懸念されるほか、環境への影響まで考慮すると、むしろ副作用や危険性がないとの研究結果には大きな疑問を呈さざるを得ない。
ただし、当団体としてはわずかでも副作用や危険性があるからと全面的に禁止すべきとの一部の主張に同意するわけではない。効果と副作用や危険性の相関関係を慎重に考慮しながら判断すべきである。
マラリアの被害の大きさ、特に妊産婦や子どもへの被害が大きいことを考えた場合、確かに農薬蚊帳がより有効であれば、利用の正当性は認められ、利用には賛成するものの、ただし、配布した蚊帳の利用方法についての充分な説明はもちろんのこと、利用状況の定期的なフォローアップ、農薬蚊帳の利用による副作用や事故による被害相談・申告および賠償制度の確立が不可欠である。
マラリアのワクチンについてはさておき、蚊帳においては体内摂取をする方法が期待されている薬剤と異なり、副作用が起きうる要素を分離することが可能であり、農薬を塗りこまない通常蚊帳の使用によって容易に少なくとも一定の効果が期待できるので、上記対応が不可能または効果を期待できない事情がある場合には通常蚊帳の配布で代替すべきである。利用者において農薬蚊帳の副作用等を恐れて利用を拒否する場合や利用方法についての説明を充分理解できない事情がある場合には、農薬蚊帳を配布するかどうかの二者択一ではなく、選択肢として通常蚊帳を配布するという選択肢を積極的に残し、日本はその場合の通常蚊帳の配布にも積極的な対応をとるべきである。
また、農薬蚊帳については副作用や危険性を指摘する意見が存在することにかんがみ、今後も継続して農薬蚊帳の副作用や危険性についての調査・研究をすることを求めるとともに、農薬蚊帳の効用だけでなく、現時点で判明している副作用や危険性及びその可能性についてわずかでも余地が残るものについては積極的に開示をなすべきである。
農薬蚊帳を配布し続ける場合であっても、現状のオリセットを改良の余地のないものとして賞賛するのではなく、更なる改良を求める次第である。つまり人間との接触を少なくする、特に乳幼児と接触を回避する工夫、人体や環境には影響をより小さくする改良をすることが必要である。
本来蚊帳は農薬なしでも充分機能するものであり、オリセットに塗りこんだ農薬よりも有効で副作用の小さい殺虫方法が開発されるならば、積極的に代替方法を採用すべきである。また、利用方法についてのより有効な説明や配布後のフォローアップ体制や利用の支障となる要因についての解消も平行してすべきである。
(3)公約等について
確かに2008年G8サミット等での公約の中でも農薬蚊帳について謳われているが、この公約はマラリア対策において、公約時の有効性についての認識、副作用や危険性についての認識について医学的情報の解明等により変化が生じた場合にまで拘泥すべきものではなく、必要に応じて農薬蚊帳による援助を取りやめその代替措置として、少なくとも丈夫で利用しやすい通常蚊帳の配布とともに、より有効または副作用の少ない対策に上記公約と同等またはそれ以上の努力をするべきものと位置づけるべきである。
以上