女性の健康についての法改正と政策策定に向けての要望書

NGO すぺーすアライズでは、下記の要望書を担当大臣に提出しました。



女性の健康についての法改正と政策策定に向けての要望書
2009年10月1日
                            〒272-0023 千葉県市川市南八幡4-5-20-5A
                         NGO すぺーすアライズ/アライズ総合法律事務所                            室長   麻鳥 澄江 事務局長 鈴 木 文
                                  allies@crux.ocn.ne.jp
 
拝啓、時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
 当団体『すぺーすアライズ』は、女性の人権と健康分野の国内・国際アドボカシーに取り組むNGOであり、女性差別撤廃条約の日本での実施に向けた活動にも携わっております。
 今年7月、ニューヨークにおいて、日本政府の女性差別撤廃条約の実施状況について審議が開催され、8月に、日本における女性差別を撤廃するために必要な勧告(最終見解)が 発表されました。
 
1 女性差別撤廃委員会からは次のような懸念と遺憾の意が示されました。
・ HIV/エイズを含む性感染症の日本女性への感染が拡大への懸念
・ 十代の女児や若い女性の人工妊娠中絶率が高いことへの懸念
・ 人工妊娠中絶を選択する女性が刑法に基づく処罰の対象となり得ることへの懸念
・ 女性の精神的・心理的健康に関する情報が不十分であることへの遺憾の意の表明

 2 また、女性差別撤廃委員会からは次のような勧告や要請がなされました。
・ 思春期の男女を対象とした性の健康に関する教育を推進すること、及び妊娠中絶に関するものを含め、性の健康に関する情報やあらゆるサービスに対してすべての女性や女児のアクセスを確保することを日本政府に勧告する。
・ 健康や医療サービス提供に関する性別データ、並びにHIV/エイズを含む性感染症の女性への拡大と対策に関するさらなる情報やデータを次回の報告に盛り込むよう日本政府に要請する。
・ 女性と健康に関する委員会の一般勧告第24号や「北京宣言及び行動綱領」に沿って、人工妊娠中絶を受ける女性に罰則を科す規定を削除するため、可能であれば人工妊娠中絶を犯罪とする法令を改正するよう日本政府に勧告する。
・ 女性の精神的・心理的健康に関する情報を次回報告に盛り込むことを日本政府に要請する。

さらに、7月の女性差別撤廃委員会での審議の際には、上記論点のほかにも委員から多くの指摘や批判的質問が日本政府に対してなされました。
・ 人工妊娠中絶が犯罪とされていため、妊娠している女性が非合法な人工中絶をする可能性があり、そのことによって健康が損なわれているという可能性がある。
・ 若い人たちの人工妊娠中絶に対する具体的な方策は日本政府報告書には書かれていないが、何%減らすといった目標はあるのか、具体策を話してほしい。
・ HIV問題含めて、10代の性教育へのアクセスについては。母体保護法では、中絶にはパートナーの承諾が必要とされている。承諾をした夫は処罰されないが、女性のみが処罰される。夫の方からの協力がない場合に中絶ができるのか。
・ 緊急避妊薬へのアクセスがあるのか。
・ マイノリティ女性の保健へのアクセスについて質問がなされ、特にアイヌ女性への支援について質問がなされました。
・ また、沖縄県、米軍の基地の存在やその存在による騒音被害が女性の健康に影響を与えており、睡眠障害や精神的影響、特に妊婦への影響の認識や政府の施策がなされているのか質問がされました。
 また、日本では、女性が自分の身体についての事柄を自身で判断できていないのではないかとの強い疑問も投げかけられました。

 日本は、憲法において性別による差別を禁止しており、また、女性差別撤廃条約の締約国として国内のあらゆる形態の女性に対する差別を撤廃する義務があります。

 このような憲法上の男女平等、及び国際公約としての女性差別撤廃条約の実施のため、当団体は、女性の健康分野について特に下記の事項を要望いたします。

(1) 人工妊娠中絶について
? 刑法堕胎罪の即時撤廃を求めます。
 堕胎罪(刑法212条)は明治時代に制定された法律であり、人工妊娠中絶をした女性のみを処罰し、妊娠や中絶のきっかけの男性は処罰しないという法律です。 
 確かに、人工妊娠中絶について国や宗教によってさまざまな考え方がありますが、 人工妊娠中絶をした女性のみを処罰する法律は、男女平等に反するばかりか、女性にとって必要な保健医療サービスへのアクセスを妨げるものであり、女性と健康に関する委員会の一般勧告第24号や「北京宣言及び行動綱領」において廃止が求められているものです。
? 母体保護法における妊娠中絶の要件の「配偶者の同意」の廃止を求めます。
 日本では、上記妊娠中絶に対して堕胎罪として犯罪を構成すると規定するとともに、母体保護法の要件を満たした場合には、その違法性を阻却し、処罰の対象としないこととしています。
 母体保護法14条では、妊娠中絶の要件として「配偶者の同意」を求めていますが、現実の夫婦関係等の中では女性がその意思に反して出産をせざるを得ないことにつながっており、女性が自分の人生設計をして社会とのかかわりを持って生きることへの大きな障壁となっております。この規定も、女性と健康に関する委員会の一般勧告第24号に反するものであります。
? 緊急避妊についてのアクセスを大幅に拡張することを求めます。
 性暴力の被害にあうなど望まない性行為をしてしまった場合や避妊を失敗した場合などに、着床を避けるための緊急避妊については、日本ではまだ充分に普及していません。女性への安全へのリスクが中絶ほどは大きくなく、倫理的にも問題が少ないものであり、妊娠中絶を防ぐために、利用しやすく、かつ無料または安価で提供できることが必要です。
? 政策との整合性についての補足
 なお、女性の妊娠中絶についての権利の確認や中絶に関する情報やサービスの拡張を始め、女性の性と生殖の健康と権利を充実させることは、いわゆる少子化対策と矛盾するものではありません。女性が子どもを産み育てることを望む場合にはこれを政府が積極的に支援することが必要であるとともに、女性が望まない妊娠を避け、かりに望まない妊娠をした場合にはこれを安全かつ合法に終了させることは、いずれも女性の意思を尊重するという意味で一貫した政策です。
 また、安全かつ合法な人工妊娠中絶を拡張して女性の健康と権利を保障して社会全体の能力を高めることは、1994年に性と生殖の健康と権利を合意した、国際人口開発会議以降の国際的潮流となっており、日本がその潮流に反して人工妊娠中絶に対して厳しい法規制を残しておくことは、日本の女性の人権に取り組む姿勢についての国際的評価を悪化させてしまいます。
 世界全体では、安全な中絶を推進する動きが加速しており、当団体からも会場発表することになっております、今年10月の北京開催の第5回アジア太平洋地域セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ会議や来年1月のバンコク開催の安全な中絶と女性の健康会議でも、安全で合法な中絶は大きなテーマとなっております。このような国際会議の報告は改めてさせていただきます。
(2) そのほか、上記に避妊をはじめとするセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスサービスや情報の充実、とくに若者たちが利用しやすくすることや性教育の充実が必要です。また、女性差別撤廃委員会から指摘された女性にとってのHIV/エイズの課題や女性の精神的健康への取り組みを強化すること、にマイノリティの実情とニーズを配慮した保健医療政策も必要ですが、この点の要望は改めて差し上げさせていただきます。

上記法案・政策のために必要な情報提供等について当NGOでは積極的に協力差し上げたいので、必要な場合には当NGO宛にご連絡をいただきますようお願いいたします。

 末筆になりましたが、大臣の今後の活躍を応援させていただきます。
                                        敬具