葬儀は「争儀」、相続は「争族」

さて、人が死ぬとあわただしくなる。
まず、死亡届をいつまでに出して、次は何をしてと、まるでエスカレーターに乗っているように運ばれてしまうのが葬儀のスケジュールだ。サービスの悪かった役所でさえ、死亡届の受理窓口だけは24時間開いている。ここですでに急ぐスタートラインにつかされる。「さっさとしなさい!」と急かす声が聞こえてくるようだ。死亡届けと一緒に死体火葬許可証申請書を提出することになり、これと引き換えに、火葬許可証をもらうことになる。
葬儀はスケジュールに追われ、親戚や業者に振り回され、葬儀も「争儀」だ。

厄介な「しきたり」
もうひとつ、厄介なのが「しきたり」。まさに「祭祀」である。祭祀とは、祖先を祭る方法のことだ。法的には、これを祭祀継承者といい、誰がなるとは法的には決まっていないが、葬儀はゆっくり考えてやる余裕はなく、「後ろ指をさされぬよう」「ほめてもらえるよう」しきたり通りに頑張ってしまうことが多い。つまり、人様の目にかなうように行動してしまうので、ひとりぶんの人生とは矛盾するし、大敵である。
おまけに、しきたりは長男がリーダーになるよう教えている。親族が全員集まってくるような葬儀では、姉妹兄弟が何人いても、長男が仕切るのが今も立派なこととされている。しきたり通り、次の代を担う人のお披露目でもあるのが、葬儀の実体だ。つまり、男が葬儀も金も仕切る、次の代も男が運転する。女は乗せてはやるが、タダ乗りだとイヤ味を言われるくらいで、末席に座ることになる。だいたい台所で忙しく立ち働くのは女性であって、姉や妹たちは末席に座るのが当然だと思われている。
 ちゃんと祭祀継承者を指名して書き残しておいてくれれば、と思うことも多いのではないだろうか。ちなみに祭祀継承者は長男である必要はなく、複数人でも可能である。