女性差別撤廃条約 日本の実施状況についての国連勧告速報

プレスリリース 女性差別撤廃条約 日本の実施状況についての国連勧告速報
2009年8月18日

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          NGO すぺーすアライズ 事務局長 鈴 木 文
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目下、総選挙では政権交代に注目が集まり、各党がマニフェストを発表していますが、それらの中では、女性についての課題は主に「子育て」という部分に限定され、多くの女性が抱える課題は軽視され、後回しにされています。

今年7月ニューヨークで、日本政府の女性差別撤廃条約の日本国内での実施状況についての審議が実施されました。その審議の結果である、日本政府への勧告(総括所見)が8月に公開されました。勧告では、日本での多くの女性差別についての問題点と、日本政府による改善の要請が記されました。

1 日本政府が、今回の勧告を完全実施できるよう関係閣僚、国会および裁判所に周知すること、これまでの女性差別撤廃委員会からの勧告を実施していないことについて改善が求められました。また、国民全体に対して、とくに女性団体や人権団体に対して今回の勧告、条約、選択議定書、条約についての一般勧告、北京行動綱領、女性2000年会議等を普及するよう、求められました。
2 差別的法律として、民法での、婚姻可能年齢の男女差、女性のみに適用される待婚期間、婚姻の際の強制的同姓制度について即時の改善が勧告されました。また、婚外子差別に対する差別的条項に対しても撤廃が要請されました。また、このような差別については、世論の動向に左右されるだけでなく、国内法を条約に合致させる視点かになされるべきことも指摘されました。
3 日本政府が条約を軽視していることに対して、条約の拘束力と国内実施、司法関係者や公務員への周知、国内で差別救済が得られない場合に利用できる選択議定書の批准が求められました。さらに、政府の「差別」の定義が狭すぎることについても勧告がなされました。また国内人権救済機関の早期創設、女性の地位向上のための施策、(第三次)男女参画基本計画への条約の反映についても提言されました。
4 女性の参加が進んでいない、雇用、政治・公的領域などで、暫定的な特別措置を採用することが勧告されました。
5 ステレオタイプ(性による固定的役割)について、マスメディア、教育分野での改善や、公人による差別的発言については罰則の適応も含めて防止策を検討するよう、ポルノグラフィなどに積極的に対抗するよう、勧告されました。
6 女性に対する暴力については、女性の人権の侵害であるとの視点をもって、この許しがたい暴力をなくすよう勧告され、保護命令の発令までの時間の短縮、被害者のための24時間相談電話の開設、移民女性や脆弱性の高い女性たちも利用できる良質なサービス、国内全体での意識向上、司法関係者、医療保健福祉従事者への研修の充実、正確なデータの把握が求められました。
性暴力については、原則として被害者側の告訴がなければ起訴できない法律の改正、刑法の性暴力の定義を女性の権利の視点から見直すこと、近親姦処罰について特別の規定を設け、性暴力についての法定刑を引き上げることが求められました。
また、性暴力を肯定するビデオゲームや漫画の販売を禁止し、児童ポルノ禁止法を改正して、この課題も扱えるようにすることが求められました。
これまでも勧告されていた「従軍慰安婦」の課題について、被害者への補償、加害者の訴追、教育について早急に全面的解決をすることが求められました。
7 人身売買については被害者の更なる保護と支援と、女性の経済的地位の向上など根本的原因への対応、売春については、売春での女性の搾取についてその需要を抑制することを含めた解決策、当事者のリハビリと社会的統合、研修生・技能実習生のビザについての監視の継続、国連・国際組織犯罪防止条約人身取引補足議定書の批准が要請されました。
8 政治・公的領域での平等参画について、議席割当制やターゲットやインセンティブの設定など女性の参画比率を向上させるよう更なる取り組みを要求され、そのためには実質的な平等を実現するための暫定的な特別な措置が求められました。また多様な女性の声が代表されるよう求められ、次回の報告書では移民や少数者女性の参加状況についてのデータの提供が求められました。
9 教育については、男女平等の促進について基本計画に盛り込むよう充分に検討すること、女性たちがこれまでと違った分野に進出して収入を創出できる機会を保障できる教育の必要性、大学での女性教員の比率を増加させることなどが求められました。
10 雇用、家庭生活と仕事の両立については、事実上の平等の実現が要請されました。そのために暫定的な特別措置が推奨され、性による職業・コースの区分け・人事を廃止し、男女の賃金格差を縮め、妊娠・出産した女性に対する違法な解雇を阻止することが要請されました。セクシュアル・ハラスメントなどの女性差別に対する制裁を設け、被害女性が救済を求めやすくすることが求められました。
また、男女ともに家庭と仕事に責任を持てるよう、教育や啓発が要請されました。パート労働がほとんど女性のみに割り当てられている現状を変革する必要性、子どもの年齢ごとに利用でする保育機関の改善、男性が育児休暇を取れやすくすることなどが要請されました。
11 健康については、性教育の促進、すべての女性が、人工妊娠中絶を含めた性的健康の情報へのアクセスの保障が勧告されました。また、人工妊娠中絶に対して女性のみを罰する「堕胎罪」についても撤廃が求められました。
なお、次回の政府からの報告にはHIV/AIDS、性感染症について正確なデータや女性の精神的健康の情報が提供されることが求められました。
12 少数者女性、脆弱性の高い女性
 マイノリティ女性についての政策枠組みや暫定的な特別な措置、政治的意思決定の場にマイノリティ女性が参画できることが要請されました。
これまで日本政府は、マイノリティ女性についてデータを求められていたのに履行していないことについて次回報告書での提出を求められ、アイヌ、部落、在日コリアン、沖縄の女性たちなどのマイノリティ女性の状況について包括的調査が求められました。また、複合的な差別にさらされがちな、農村部などの女性、シングルの女性、障害者女性、難民・移民女性についてのデータの提供と、このような女性たちの特別なニーズに対応できるジェンダーに視点を当てた政策等が求められました。
13 北京行動綱領、国連ミレニアム開発目標、他の条約の批准
北京宣言・行動綱領の活用、国連ミレニアム開発目標の達成と、それらについての報告書での記載が求められました。主要条約の遵守と、国連・移民労働者とその家族の権利保護条約や障害者権利条約の批准も推奨されました。
14 ?民法改正及び?雇用、政治・公的領域等での暫定的特別措置の2点について、2年以内に、実施状況詳細報告を提出することが要請されました。また、2014年7月に、次回の報告書の提出を求められました。

このような女性差別の現状を改善していくことは、女性差別撤廃条約を批准している日本政府の責任であり、必要なことです。今回の総選挙でどの政党が政権を担当することになっても、女性差別撤廃に向けて、女性の人権後進国である日本の現状を変革する責任があり、その役割を担える国会議員を選択することが国民には求められています。

国連の女性差別撤廃委員会からの勧告(総括所見)全文は、下記ウェブサイトから入手できます。
http://www2.ohchr.org/english/bodies/cedaw/docs/co/CEDAW.C.JPN.CO.6.pdf

 当団体「すぺーすアライズ」は、女性の人権と、開発・保健の課題に取り組むNGOであり、国連ミレニアム開発目標の中でもっとも達成が危ぶまれている、妊産婦の健康改善に特に集中して取り組んでおり、妊産婦の健康に取り組む、White Ribbon Alliance やWHOのPartnership for Maternal, Newborn & Child Health(PMNCH)の会員NGOです。

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